プロダクトゴールについて

はじめに

こんにちは、アプリ開発支援部所属の愛川と申します。
本記事は、社内で受講したアジャイルトレーニングの振り返りとして、スクラムガイド2020で新たに追加されたプロダクトゴールについてまとめたものです。トレーニングで説明を受けた際に上手く咀嚼できなかったと感じたため、題材として取り上げました。

1. プロダクトゴールとは

1-1. 概要

まず、プロダクトゴールとは、プロダクトの将来的な状態を表しており、スクラムチームが計画を立てる際のターゲットになるものだとされています。また、プロダクトゴールはスクラムチームにとって長期的な目標であるとも書かれています。

1-2. スクラムガイド2020におけるプロダクトゴールの位置づけ

上記の説明ではあまりに漠然としているため、他概念に対する位置づけを確認します。
スクラムガイド2020において、プロダクトゴールはプロダクトバックログというスクラムの作成物における確約として位置づけられています。 上記の位置づけを理解するためには、作成物とは何か?確約とは何か?プロダクトバックログとは何か?といった点を確認する必要がありそうです。

以下がスクラムガイド2020における各用語の説明です。

  • 作成物…スクラムにおける何らかの仕事や価値(具体的にはプロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメントの三つ)
  • 確約…重要な情報の透明化と集中を助ける情報を提供し、進捗の測定を可能にするもの
  • プロダクトバックログ…創発的であり、かつ順序付けられた、プロダクトを改善するために必要なもののリスト

以上の内容を踏まえると、プロダクトゴールは、プロダクトの改善に必要な仕事や価値の一覧において重要な情報の透明化を促し、(スクラムメンバーの)集中を助ける情報を提供するものであり、これにより進捗が測定可能になるものとして位置づけられているようです。

1-3. プロダクトゴールの目的

次に、なぜ必要なのか?という点からプロダクトゴールを見ていきます。
スクラムガイド2020では、プロダクトゴールを含む確約を設定することによって、スクラムチームとステークホルダーの経験主義とスクラムの価値基準が強化されるとしています。
先程の位置づけと同様に、スクラムガイド2020における経験主義とスクラムの価値基準の記述を確認しましょう。

一つ目の経験主義とは、実際の経験を観察し、そこから得た知識を根拠として業務を進めていく考え方であり、

  • 作成物の透明性
  • 進捗状況の検査
  • 許容範囲を越える結果の調整を行う適応

の三つを柱としています。

二つ目のスクラムの価値基準とは、

  • 確約…ゴールを達成すること、相互にサポートすることを確約する。
  • 集中…ゴールに向けて出来る限りの進捗を生み出せるよう、スプリントの作業に集中する。
  • 公開…スクラムチームとそのステークホルダーは、作業や問題を公開する
  • 尊敬…スクラムチームメンバーは、互いを能力を持つ自立した存在として尊敬し、一緒に働く人達からも同様に尊敬される。
  • 勇気…スクラムチームのメンバーは、正しいことをする勇気や困難な問題に取り組む勇気を持つ

の五つであり、スクラムを成功させるには、上記の価値観がメンバーに浸透している必要があります。

ここで、1-2の「透明化と集中を助ける情報を提供し、同情報によって進捗の測定が可能になる」という説明を加えると、プロダクトゴールの目的は、

  1. 作成物の透明性を強化することで、スクラムチームとステークホルダーが実際の経験を観察し、そこから得た知識を根拠として業務を進めていくという考え方を強化すること
  2. スプリント作業への集中を助ける情報を提供すること
  3. (ゴールに向かった進捗、つまりプロダクトオーナーやステークホルダー側が)計測可能な進捗を生み出せる環境を作ること

と言えそうです。

また、スクラムガイド2020では、スクラムガイド2017との差分を紹介するページで、より大きな価値ある目的に集中するためにプロダクトゴールを導入したとされています。 ここで、1-1の「長期的な目標」という話を合わせると、最長一ヶ月のスプリントゴールよりも長い期間を持つプロダクトゴールを設定することで、より大きな目的に集中させる意図もありそうです。

2. プロダクトゴールの作成と進捗管理

2-1. プロダクトゴールの作成とサンプル

これまでの内容によって、プロダクトゴールの内容をある程度把握することができました。それでは、どのように実践していけば良いのでしょうか。

ここでまず考慮すべきものがプロダクトビジョンという概念です。こちらはプロダクトの長期的、将来的、戦略的な到達点となるものです。プロダクトビジョンとプロダクトゴールの両者を説明している記事では、プロダクトゴールは私たちがプロダクトビジョンへ到達する、または向かっていくためのステップだと説明していることが多いです。

それでは、プロダクトビジョンとプロダクトゴールに関する簡単な例を見ていきましょう。

一例を紹介しているこの記事では、プロダクトビジョンを 「イギリスにおいて、オンラインベーカリーの先駆的な存在になる」とした場合、プロダクトゴールとして

  1. 「ロンドンの顧客に販売するためのウェブサイトを始める」
  2. 「ロンドン全域の顧客に販売するため、製造と配送能力を拡大する」
  3. 「App StoreとGoogle Play Storeを通して、オンラインにおけるプレゼンスを高める」

といった内容を設定できるとしています。

また、こちらの記事もよく参考例として取り上げられています。
同記事では、将来的なゴールであるプロダクトビジョンを「今後10年間で、Uberが自家用車の所有や公共交通機関の利用より安価な代替手段になること」に設定した場合、 プロダクトゴール(記事内ではターゲットとなる状態)の例として、「2017年1月30日までに、各都市に最低50人のドライバーを用意すること」を挙げています。

上記の記事を踏まえると、まず将来的なビジョンを考え、そこへ到達するために今専念すべき中長期的なゴールとしてプロダクトゴールを設定すれば良いことが分かります。

2-2. 作成時に気を付けるべき点

2-1でプロダクトゴールの作成例を確認しました。同作成例を踏まえて、気をつけるべき点も見ていきましょう。 今までの内容を踏まえると、以下の二点に気をつけるべきだと言えそうです。

  1. プロダクトビジョンについて、チーム全体での議論や共有をできていない状態でプロダクトゴールを決めようとしてしまうこと
  2. プロダクトバックログの内容をまとめ、同内容をプロダクトゴールとしてしまうことです。

2-1で触れられていたように、プロダクトゴールを作成する際には、まずプロダクトビジョンがあり、同ビジョンへ到達するためのステップや到達する際の障害を乗り越えるステップが何なのかを検討する必要があります。そのため、上記の内容を避けることが望ましいと言えます。

2-3. プロダクトゴールによる進捗管理

上記の内容に沿ってプロダクトゴールを設定した後、同ゴールに向かって進捗を生み出していく必要があります。この「ゴールに向かって」という点を担保するためには、スクラムイベントのスプリントプランニングやスプリントレビューにおいて、プロダクトゴールに近づいているかどうかを都度確認していくことになります。

3. スクラム初心者が気をつけたこと

これまで、プロダクトゴールの内容や目的、作成例を見てきました。ただ、今までの内容を理解して、明日からばっちりだという方は多くないでしょう。
私自身もスクラム開発は初めてであったため、トレーニング内容を実践していくために明日から何をすれば良いのか分からないというのが正直な感想でした。そのため、私がプロジェクトに参加する際に気をつけたこと二つを以下に書いていきます。

既存資料を読み込む
一つ目は当たり前だと言われてしまいそうですが、既存資料を徹底的に読み込むことです。
もちろん、プロダクトビジョンと(その段階での)プロダクトゴール といったものを明記している資料が存在していれば、大きな問題はないでしょう。しかし、資料としてまとまっていない場合も多々あります。そのため、既存の資料をしっかりと読み込むことで、プロダクトビジョンやプロダクトゴール(またはそれに類する目的)を理解していました。企画段階の資料や、インセプションデッキ、日々の議事録等、記録されている資料を全て読みます。最新のものだけだと、現在のプロダクトビジョンやプロダクトゴールに至った理由を理解できない場合があるため、個人的には、過去のものまで遡って時系列順に辿っていくことをおすすめします。会議の録画等があると、なお理解しやすいです。

常に目的を意識する
二つ目は常に目的を意識することです。
恥ずかしながら、最初の頃はタスクの背景を表面的にしか理解しないまま、担当の作業を始めてしまっていました。しかし、表面的な理解を基に作業を進めると、頓珍漢な方向へと進んでしまうことも少なくありません。そのため、考えられる範囲で、このタスクの目的は何だろう?顧客にとってどんなメリットがあるのだろう?と考えるように意識づけていました。このように、今すぐ始められるレベルで目的を考えることは、将来的に、この作業はスプリントゴールに対してどのような位置づけなのか?今回のスプリントゴールがプロダクトゴールに対してどのような進捗を生むものなのか?といった問題を考えることへと繋がるでしょう。

さいごに

本記事では、スクラムガイド2020から追加された概念であるプロダクトゴールについて簡単なまとめを行いました。本文の内容を踏まえると、1-1の概要は、

  • プロダクトゴールとは、長期的な目標であるプロダクトビジョンへ到達するために必要なステップの中で、今最も優先して到達すべき将来の状態を表すものであり
  • (スプリントゴールより長期的な)このプロダクトゴールを設定することによって、スプリントの計画を立てる際のターゲットがより明確になる

ものだと言い換えられそうです。私自身、日々の業務の中でプロダクトゴールを完璧に意識できているとは言い難いものの、これからの業務の中で今回学んだ内容を活かせればと考えています。本記事が皆さんの業務の一助になれば幸いです。

参考文献

Scrum Guide | Scrum Guides

Product Goal | Scrum.org

Product Goal & Sprint Goals – A Simple Example | Scrum.org

What is Good Product Strategy? — Melissa Perri