心理的安全性とアジャイルマインドの関係性

はじめに

はじめまして。テクノロジー本部の弓山です。なんとなく理解していたアジャイル開発ですが、トレーニングを通じて成り立ちから基礎までを学び、さらに最新のトレンドまで学習することができました。今回はアジャイル開発をするための前提ともいえる「心理的安全性とアジャイルマインドの関係性」についてご紹介します。

心理的安全性とは

心理的安全性が注目を集めるようになったのは、Googleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」と社内調査の結果を発表したことがきっかけとなります。Googleが定義している心理的安全性は以下です。

心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。

引用元:Google re:Work

心理的安全性が高い状態のチームであれば、メンバー同士が尊重しどのような意見や指摘であっても議論でき、それぞれの強みを活かして目的へ向かうことができます。
低い状態であれば、その逆の効果が表れます。なるべく個人で仕事を行おうとする力が暗黙的に働き、各メンバーが正しいと思える意見を発言できず、ズレを補正できないまま各々が決めた目的で仕事が進んでしまいます。

一般的に、心理的安全性を形成する因子は以下の4つと言われています。

  1. 話しやすさ
  2. 助け合い
  3. 挑戦
  4. 新奇歓迎

各因子の具体的な説明は割愛しますが、4つの因子を計測してレベルが高い状態が心理的安全性の高い状態となります。「挑戦」「新奇歓迎」が因子に含まれているので、いわゆる「ぬるま湯状態」とは異なり、適度に緊張感や責任がある良い精神状態となります。

それでは、アジャイルマインドについて触れていきましょう。

アジャイルマインド

私が思う実践的なアジャイルマインドは、大まかには以下の3つの要素だと考えています。

  1. 協調性が高い
  2. 自発的である
  3. 目的意識が強い

これら3つの要素について説明します。

1. 協調性が高い

こちらはアジャイルソフトウェア開発宣言の中にも「契約交渉よりも顧客との協調」と書かれている通り、アジャイルマインドを高めるうえで重要な要素です。
私が思うに、顧客との協調も当然必要ですが、リモートワーク開発が主流となりつつある開発現場では、開発チーム内での協調性も意識する必要があるかと思います。
オンサイトだと感じ取れていたサインや状態などの情報が、スクラムイベントだけでは共有されなかったり、感じ取れなかったりします。

2. 自発的である

変化に素早く対応するには、すぐに意思決定する必要があります。
そのため、アジャイル組織はチーム内での権限と責任がフラットに与えられています。
また、アジャイルは短いサイクルで計画するためリリースまでが短期なので、結果もすぐに出ます。
従来型の組織で受け身で仕事をしていると、これらのアジャイルとしての強みが生まれません。そのため自発的である必要があります。
しかし、チーム全体が自発的になるにはマインドだけの問題ではなく、ドメイン知識や背景を理解する必要があるので、自発性が高いチームを作るには時間がかかります。

3. 目的意識が強い

開発者はおそらく、以下のような目的を設定してタスクを進めることが多いと思います。
・〇〇機能は△月△日までに実装して、□月□日にリリースする。
これは間違いではないのですが、開発者の目的であり、チームの目的ではありません。
会員数を増やしたい、サイトの直帰率を減らしたい、有料コンテンツを購入してほしいなど、チームの目的を達成するためのタスクなので、開発者も目的(さらに奥の価値)を理解したうえで開発したほうが良いです。
チームで目的を意識することにより、より目的を達成する価値のあるタスク提案が出てきます。さらに、〇〇業界をもっと便利にして△△の人たちに幸せになってほしいなど、もっと目線が高い目的を共有することによりラダー効果が発生し、モチベーションが高い状態でプロジェクトが進みます。

心理的安全性が低いと何が起こる?

アジャイルマインドでは「協調性」「自発的」「目的意識」が必要で、心理的安全性では「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」が重要であることがわかりました。 どれも似たような内容で以下の図の関係性になると思います。

■心理的安全性の因子とアジャイルマインドの関係性

心理的安全性の因子は、アジャイルに必要なマインドの根幹にあることがわかります。
この因子が欠落していた場合、アジャイル開発で起こりうる出来事を考えてみました。
協調性(話やすさ、助け合い、新奇歓迎)が低い場合は、対人的にリスクがある状態もしくはあると思っている状態となります。例えば、話しやすさが低い場合ですが、デイリースクラムやレトロスペクティブで本音が言いづらくなるので、進捗の遅延報告や気になったことが正確に共有されなくなり、事後発覚してチームでフォローができなくなります。
自発性(挑戦、新奇歓迎)が低い場合は、チームは悪い意味で機能提供だけに徹底していることが多くなります。新しい技術への挑戦はもちろん、ビジネスサイドへの意識も壁ができてしまうので、提案するという選択肢は薄れて、タスクに対してのYes/Noで判断してしまう癖ができてしまいます。
また、新しい意見や突飛な意見に対してもチーム内で反発が発生し、正しいと思えることややってみたいことを発言しにくい状況になります。

具体的には以下が発生する可能性があります。

  • デイリースクラムで、良い報告のみ共有される。遅延察知が遅れる。
  • 各メンバーが自発的ではないので、キーマン任せになり個人負担が増える。
  • キーマンと各メンバーの開発/ドメイン理解差が大きく開き、説明のコンテキストが低くなるためプランニングのコストが上がる。タスク切れが発生する。
  • レトロスペクティブで、問題が出てこない。最終的に開催されなくなる。
  • 人によるボトルネックが発生する。

他にも問題は発生しそうですが、スクラムイベントが正常に機能しなくなるのが主に発生する出来事としてあり、最終的に「チームが届けられる価値が下がってしまう」という大きな問題が起きます。

心理的安全性を構築する方法

心理的安全性が低い状況は、チームの透明性が低くなっており「チームへの信頼度」が落ちている状況だと考えられます。さらにテレワーク主流だと拍車がかかります。
私なりに、チームへの信頼度を上げるためにできる事を考えてみました。

  1. 1 on 1 ミーティング
  2. 分報
  3. 偏愛マップの共有

それでは個別に説明していきます。

1. 1 on 1 ミーティング

閉じられた会話だと周りを気にすることがなくなるので、本音を話しやすいです。
リーダーやマネージャーがいる場合は、1 on 1ミーティングを開催してもらいます。
狙いは対話です。チーム内の会話だと対話できずに聞く専門になってしまうことが多いので、できるだけ対話の機会を増やします。
対話を増やすことにより、チームメンバーを1人の人間として深く理解することができ、お互いに配慮し助け合う関係性を築くことができます。
また、チームメンバーと目標/現状/選択肢/予定を一緒に話せる機会にもなり、自発的にメンバーが動き出せるきっかけを作ることができます。

2. 分報

日報ならぬ分報です。言葉の通りに捉えると分刻みの報告と思われるかもしれませんが、そうではありません。独り言チャットを指します。
自分のチームのオープンなチャネルやスレッドに個人専用チャットを作り、今の気持ちや困っていることなどの独り言を書き込んでいきます。時事ネタや趣味のことなどの雑談も、もちろんOKです。
また、他メンバーの気になった分報にはコメントしてもよいです。
グローバルなチャットにそれぞれが独り言を書き込むと、雑多なチャットとなり流れてしまいますが、分報のような自分だけが書き込むチャットに書き続けることにより、その人のストーリーが生まれます。
ストーリが出来上がるため、分報を眺めてもらうだけで、自分がどういう人間か知ってもらうきっかけになります。
分報が活発になると、オンサイト時と同じく目で感じ取れた情報が文字になるので透明性が上がります。

3. 偏愛マップの共有

偏愛マップとは、字の通り「偏った愛を伝えるマップ」です。
誰にも遠慮することなく、自分が愛してやまないモノや事柄を書き出す自己開示法です。
実は数カ月チームで仕事をしていても、メンバーの趣味嗜好はわからなかったりします。
テレワークの場合だと、人間として認識されずデジタルなモノと認識されているかもしれません。
偏愛マップはアイスブレイクの一種に見えますが、そんなことはありません。
その人の人間性を知る簡単な方法は、趣味に対しての思いやこだわりを聞くのが一番です。趣味に通じていることは仕事にも表れます。

最後に一番効果があるものを紹介します。

[番外] 実際に会う(テレワークの場合)

一番効果があると思います。飲み会でもレクリエーションでも雑談でもなんでもよいのでとりあえず、顔を合わせると人間として認識するので温かみや配慮が生まれてきて、自然と信頼度が上がってきます。

最後に

心理的安全性が低い状態でアジャイル開発を進めていくと、様々な弊害が出てアジャイルの強みが出しにくくなります。
また、心理的安全性を高めるためには、チーム内の信頼度を高める必要があります。
テレワークが主流になり、実際に会ったことがない人と仕事をすることが多い現状で、いざ信頼度を高めようとしても中々うまくいきません。オンサイトでは出来ていたちょっとした雑談や、視界にぼんやり映っていたものが大事だったのかもしれません。
アジャイルソフトウェア開発宣言にある「プロセスやツールよりも個人と対話」とあるように、対話するための土台となる信頼関係の構築を心掛けていきます。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!