A3ワークショップについて

はじめに

はじめまして、テクノロジー本部アカウントシステムエンジニア部、塚原と申します。エムティーアイに入社して約2年が経過しました。現在は開発者リソース管理、IT基礎研修トレーナー、アジャイル開発基礎研修トレーナーとしての職務を担っており、今後もトレーナー職としてのスキルをさらにブラッシュアップする予定です。この記事は、現在まで行ったプロジェクトの中で、ファシリテーションを学んでいく過程で行ったA3ワークショップの方法に関する所感と改善点を記事にしたものです。

A3とは

A3は、QC活動における報告書のフォーマットです。A3用紙1枚のなかで、テーマを明確にし、現地現物をしっかり確認し問題の本質を見極めます。そして具体的な目標を設定し、計画に基づいて行動できるようにまとめるものであります。それをトヨタが実践していました。トヨタの社員にとって、仕事とは「問題を解決すること」であり、昔から「紙1枚に落とし込むこと」を徹底して実践しています。問題解決を戦略的に実行するためにA3報告書が使われ、新卒社員から幹部役員まで義務付けられています。もともとA3用紙1枚という制限のあるスペースを使って、余計なことは書かず、重要なことだけにフォーカスして整理する必要があり、そのために、内容を深く考え理解した上で、相手に伝わるように表現するのがA3の狙いとなります。
つまり
A3=問題解決のフレームワーク
であります。
A3を使って計画を立て、実行に移します。そして、その結果を評価し、改善を行います。これを四半期に一度PDCAサイクルで回し、カイゼンの文化を定着させます。A3の活用例として、会社として問題解決をするためA3で目標・計画を策定し、それに基づいて各部門・責任者の目標・計画に落とし込み、さらにチーム・個人にも同様に目標・計画を立ててもらいます。このようにA3は組織の方針展開にも役立てることができます。

カイゼンのPDCAサイクル

HMW

HMW = How Might We...? (どうすれば我々は...できそうか?)

HMWとはIDEOが考案したデザイン思考に用いられるテクニックで、情報をインプットする際のメモを取る方法です。A3ワークショップの冒頭で HMWを使ってメモをとり、後ほどグループ化して整理します。HMWを行うことによって、アイデア出しを剃る前に『何が課題なのか』『どうあるべきか』をリストアップし、参加者の認識を合わせることができます。

How → 解決するためのアイデアに導いてくれる問い
Might → 何かしら良さそうな結論が複数存在することを示唆する
We → 個人ではなく、参加している全員で考え、チームワークを呼び起こす

A3のテーマのフォーマット(例)

A3の各パーツの説明

A3の各パーツへの記載事項は以下を参照してください。

Theme(テーマ設定)
今回のプロジェクトにおけるテーマを決めます。これは最初に仮決めし、後に変更することも可能です。
例)
・○○の売上UP
・△△の受診率向上

Background(背景)
なぜこのテーマが選定されるのか、このプロジェクトの発端となった問題意識や、問題発見に至るまでの背景、前提を記載して共有します。過去の経緯などもプロジェクトの理解に必要な情報であれば記載します。

Current Conditions(現状把握)
現在どういう問題があるのか、端的に箇条書きでまとめます。ここでいう問題とは、こうありたいという将来像(To-Be)と現状(As-Is)のギャップを指します。推論や仮定ではなく、事実や発見したことにフォーカスし、問題を明確化します。絵を使って表現してもよいです。複数の問題がある場合は優先順位を付けます。ここで一度テーマを見直します。

Goal(目標設定)
ゴール(目標)は必要性からはっきりと決めます。積極的な意識を織り込んだ目標にします。現状把握で特定された問題を、いつまでに、どこまで解決するのかを定義します。

Analysis(要因分析)
ゴールを目指すにあたり、どのような障壁や課題があるのかを挙げて整理し、それに対する分析を行います。特性要因図を用いて分析することが多いです(=フィッシュボーン分析)。まず特性(結果)を書き出し、その結果をもたらすのに影響を与えた要因を設定します。要因にはよく4M(人、機械・設備、方法、材料)が用いられます。要因はブレインストーミングなどでランダムに挙げ、「なぜ」を繰り返して洗い出します。最後に問題解決に最も影響を持つ真因を特定し、事実の裏付けを行います。(調査の実施、現地現物で確認など)

Proposed Countermeasures(対策立案)
影響力の大きい真因に対して対策を立てます。具体的にどう解決するか、対策を挙げます。

1.対策案の洗い出し
対策は、知恵・技術・体験を生かし、創造的・多角的に案を考えます。一案だけでなく、多くの対策案を考え検討します。Crazy 8やStory Boardを使うのが望ましいです。

2.対策案の評価
目標達成に寄与できそうな対策を選びます。また実現可能性や経済性の観点でも選択しなければなりません。その対策を打つことにより、新たな問題や副作用が発生することはないかマイナス面も考慮しておく必要があります。

Plan(計画)
Countermeasure(対策)に基づいて計画を立て、スケジュールに落とし込みます。

Follow-up(フォローアップ)
予定通り実行されるかどうかフォローアップのやり方を記載します。本プロジェクトの責任者(PM)は誰かを決め、どういう指標で誰が何をチェックするかを明確にし、積み残しとなったアクションアイテムをどうするかなど箇条書きで書き出します。

A3ワークショップを進めるにあたり

A3ワークショップを実施するにあたり、固定観念を持ったまま進めてしまうと、課題を誤って認識し、解決策が狭められる可能性があります。そこでメンバーには常識や先入観にとらわれず、以下のことを意識しながら一から考えていきます。

  • すべてを仮説と捉える(ターゲットユーザー、課題、ソリューションなど)
  • 仮説が事実に置き換わるときはエビデンスや定量・定性データに基づく
  • システム開発だけが解決策ではない
  • 相手の目線に合わせてわかりやすく伝える
  • この取り組みを楽しんで、協調・協働・共創する

A3ワークショップ全体の流れ

今回のA3ワークショップ全体の流れは、下記のようにいたしました。

  1. A3ワークショップの概要を説明する
  2. A3を行う際使うツール(Miro等)の接続・操作を確認する
  3. A3を作成する当事者の事業背景を説明する
  4. テーマ設定、背景、現状把握、目標設定、要因分析、対策立案、計画、フォローアップのワークショップを実施する
  5. A3をブラッシュアップする

A3ワークショップを実際にやってみた

今回、あるプロジェクトで、企業経営の見直しとDX化を進めるため、A3ワークショップの依頼を受けました。本来A3ワークショップは上記のステップを踏んで行うものですが、本プロジェクトでは当初からRFPが提示され、A3ワークショップで考察すべき点が示されており、今回のA3ワークショップにおいては対策の洗い出しが難しかった印象を受けました。またA3ワークショップを行う際は、クライアント企業の事業内容を十分理解することとA3ワークショップで必要なフォーマット(上記記載)をしっかり用意することが非常に必要であると認識しました。さらにファシリテーターとして、上記の情報の精査と事前準備を行ったうえアイデア出しをして、クライアントの社員同士のディスカッションの最中は邪魔をせず、スムーズな進行のみに注力すべきであることも重要であることも理解しました。そうすることによって、クライアント側の問題点を自身のものとしてより深く認識してもらうことが可能であり、より意味のあるディスカッションとアイデア出しができることがわかりました。

A3ワークショップをやって良かったこと

A3ワークショップは私にとって初めての試みであり、経営層を含めた社員全体と話し合いを行うことによって、経営層と社員の抱える会社やその事業に対する問題点の乖離を把握し、本来解決すべき問題点を理解し(現状把握)、対策を考えることを学ぶことができました。また、先方から提示されたRFPと弊社でリサーチした現状把握を比較し、Fit&Gap分析を行い、仮説検証ソリューション検討を行い、RFPで提示されたことが解決するべきソリューションであるかを検討することができ、本来あるべきA3をより深く理解することができました。最終的に、社員全体での話し合いにより、どのようなソリューションを作ればよいかというアイデアの洗い出しを行うことができ、要求を分析し、対策を検討することができたことが大きな学びになりました。

A3ワークショップにおける改善点

本プロジェクトでは当初からRFPが提示され、本来A3ワークショップで洗い出すべき点がある程度決定してしまっていたので、会社とその事業が抱えている経営課題に対する対策を考えるというより、既に提示されたRFPに記載されているソリューション案が妥当であるか検討することに注視することになってしまったことが大きな課題であったと認識しております。したがって、A3ワークショップを提案する際、RFPありきではなく、会社の抱えている課題の現状把握から行えるよう、経営層と社員と多くのアイデア出しから始め、そこから前述したように様々なアイデアを検討していくべきであったことが今回のプロジェクトの改善点だと考えました。

まとめ

A3ワークショップで事業のテーマ設定から対策立案、ゴール設定、計画をA3用紙1枚にまとめることにより、事業の抱える問題や解決策を簡潔に理解することができ、それによって

  • 新規プロジェクトで関係者間において共通認識を持つこと
  • 自分が直面している問題を整理して解決案を考え出すこと
  • 短時間で関係者に問題解決の報告・共有をすること
  • 経営層向けのエグゼクティブサマリーを作成すること

上記が可能になることを理解しました。
事業の抱える問題点や対策立案を簡単に可視化するために有効な手段であることが、A3の大きなメリットであることをより深く確認することができました。

画像出典

A3用紙サイズ・寸法(紙加工仕上寸法:JIS P 0138) - JIS規格ポケットブック
トヨタ A3の書き方 | Kusunoko-CI Development
https://dennis-gilbert.com/care-about-your-customer/077514494-young-business-team-meeting-mo-2/